コラム

時代閉塞の現状

石川啄木の歌集をよく読んでいた小学生のころ、私は石川啄木に強いあこがれを抱いた。啄木のような詩人になって20代で夭折する。極貧の中で肺病で死ぬ。なんと素敵な生き方だろうと子供心に思ったものだった。20代の半ばに沖縄に渡っ・・・

続きを読む

悩みごとの神様

もう15年ほど前になるが、“金儲けの神様”といわれた作家の邱永漢先生と同じ会で講演をする機会があった。小説も金儲けのノウハウ本も一度も読んだことはなかったが、子供のころは本屋に行くと、カッパブックスのどういうタイトルだっ・・・

続きを読む

寄席の話

若いころ悪友のKと一緒に池袋の寄席に落語を聞きに行った。食べ物の話が出てきて、「もりそばを食う時は、ギョクの一つも頼んで、そばの上からからめて、つゆを付けてささっとすする」という。「そうか、卵のことはギョクというんだ。こ・・・

続きを読む

選択しない幸福

古代ギリシアのアテネでは、公職はある時から選挙ではなく抽選になったという。これは政治権力の独占を防ぐためだった。選挙になると、公職に強い動機を持つ者が立候補して、その中から選ぶしかなくなるが、そもそも公職に強い動機を持つ・・・

続きを読む

戦争が廊下の奥に立ってゐた

昭和14年の『昭和俳句作品年表(戦前・戦中篇)』の頁に、渡辺白泉のこの標題の句が載っているのを見つけて、白泉はこれで特高に引っ張られたんだったっけなどと思いながら、パラパラめくっていたら種田山頭火の句も同じ年に載っていた・・・

続きを読む

難有う

少し前の新聞に、夏目漱石の手紙が見つかったという記事が出ていた。自分の講演を英訳して送ってくれた学生へのお礼状で、新聞記事には「難有う」と書いてあったので、えっと思ったが、漢籍に詳しい漱石のことだから、間違うはずがないと・・・

続きを読む

一般大衆諸君

大衆文化にどっぷりとつかった人を大衆というとすれば(というより大衆というんだが)、私は紛れもなく大衆である。というのも、モーツァルトやベートーヴェンを聞いても、ほとんど涙を流すことはないのに、テレビの『全日本歌唱力選手権・・・

続きを読む

訴訟社会のオキテ

  ここ10年ぐらいで一番、目から鱗の出来事があったとすれば、それは、仕事のためにコミュニケーションがあるのではなく、コミュニケーションのために仕事があるとわかったことだ。といっても、恥ずかしながら、自分で悟ったのではな・・・

続きを読む

本屋の風景

ナチス・ドイツに協力し、ゲシュタポの手先としてユダヤ人の逮捕や財産没収、レジスタンスの地下運動の弾圧に手を貸すフランス人の青年の鬱屈した姿とユダヤの娘との交流を描いたルイ・マル監督の映画『ルシアンの青春』は、40年近く前・・・

続きを読む

バカの箱

「テレビはバカの箱」という言葉が韓国にはあるそうだ。韓国のテレビだけがとりわけてそうというわけでもないだろうし、日本のテレビも同じようなものだと思っていたら、日本のテレビは、同じ「バカの箱」でも、ちょっと違うのだという。・・・

続きを読む

呼子と口笛

ブータンといえば、世界一幸せな国だと思っていたら、そう単純な話ではなかった。日本や欧米などの先進国は、国民の豊かさを示す尺度として国民総生産(GNP)や国内総生産(GDP)を掲げているが、ブータンでは国民の精神面での豊か・・・

続きを読む

サッカーと作家

フランスの家族人類学者エマニュエル・トッドによれば、ドイツと日本は似た国である。何が似ているかというと、家族制度である。家族制度は、太古の時代のどこかで母権制から父権制へと変わったと見られているが、それはそのころの世界の・・・

続きを読む

悲劇と喜劇

鹿児島の城山観光ホテルに泊まると、タクシーの運転手さんが道々、頼まなくても城山の史跡についてガイドしてくれる。ホテルの建つ城山は、130年以上前の西南戦争の最後の戦場になったところである。ふもとの城壁には4万の政府軍の銃・・・

続きを読む

悪女の条件

犯罪の裏に女ありなどといわれるが、いまどきの犯罪では女性は裏に隠れていないで、表に出ていることが多い。いわゆる悪女の条件は次の4つであると、『中国現代悪女列伝』に書いてある。 1.美人である 2.才媛である 3.大きな事・・・

続きを読む

対馬海峡冬景色

一般論としての話である。職場には上司と部下がいる。上司が部下に期待することは何か。自分の負担を分担して少しでも楽にしてくれることである。ところが、中には上司を楽にしてくれるどころか、上司の負担を増やしてばかりいる部下がい・・・

続きを読む

歴史は家の中で創られる

現実の政治への関心がとみに薄らいでいる。昔に比べると政治家が面白味に欠け、肩入れしたくなる政治家がいなくなったということもあるだろうが、どうもそればかりではないようだ。大事なことは政治などにあるのではなく、家の中にある、・・・

続きを読む

おー、スージーQ

商店街を歩いていたら懐かしい曲が流れてきた。クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの『スージーQ』である。つい昔を思い出して、立ち止まって聞いてしまった。 あれは、高校3年の秋だった。バンドをやっていた演劇部の後輩の・・・

続きを読む

ピラミッドの秘密

大学入試センター試験の日本史の問題に手塚治虫のマンガが取り上げられているというので、新聞をひろげてみたら、昭和3年に生まれた手塚治虫の誕生から漫画家になるまでの足跡に合わせて昭和の歴史を取り上げた問題が出ていた。「紙の砦・・・

続きを読む

すき焼きとしゃぶしゃぶ

                  すき焼きとしゃぶしゃぶ テレビですき焼きを食べているのを見たら、急にすき焼きが食べたくなった。そういえば、もう何年も食べてない。適当な店を探して、予約を入れてみたら、どこもいっぱいだと・・・

続きを読む

悪い田中

新宿ゴールデン街のひと頃よく行っていた店の30周年記念パーティがあったので顔を出した。最近はすっかり足が遠のいてしまったが、私が通っていたころ、その店には田中という常連客が3人いた。「良い田中」、「悪い田中」、「普通の田・・・

続きを読む

台風と因縁

今はもうすっかり薄くなってしまったが、まだたっぷりあった頃からだから、ざっと30年来の付き合いになるのだが、私がいつも髪を切ってもらっている人は会津若松の人である。会津若松と私の故郷である鹿児島とは、因縁の間柄であるため・・・

続きを読む

あなたに似た人

今年の夏はひざ下ぐらいまでの半ズボンに大きなリュックサックを背負った男性のスタイルを目にすることが多かった。気を付けて見ていると、若い人とは限らず、40代、50代の人もいる。割合的には、だいたい電車の一両に5~6人ぐらい・・・

続きを読む

右手に汗の甲子園

夏の高校野球の試合をテレビで見ていて、いつも思い出すものがある。昔作って、日の目を見なかった沖縄のビールの広告だが、高校野球の観戦スタンドで湧き立つ人たちの大きな写真と、「右手に汗、左手にオリオン。」の文字。高校野球の観・・・

続きを読む

いつも読書する日

子どもの読書を推進する法律があるのを知って驚いた。正確には、『子どもの読書活動の推進に関する法律』(平成13年12月12日法律第154号)という。 子どもの頃から読書が悪癖のように身に付いて、親や先生から「本ばかり読んで・・・

続きを読む

南 瓜

久留米への出張の帰り、少し時間があったので、久しぶりに博多に寄って、大濠公園の中にある福岡市美術館に草間彌生展を見に行った。いまや日本を代表する前衛芸術家である草間彌生の展示は多く、あちこちで開催されているが、福岡市美術・・・

続きを読む

たまにはうまい鮨を食べようと、行きつけの近所の鮨屋を避け、駅前の回転ずしを通り過ぎて、駅の向こう口のにぎやかな通りを歩いて、それらしい鮨屋に入ってみたら、ことのほかうまく、腹が満たされるまで食べて飲んで、炙りものや焼き物・・・

続きを読む

目玉焼きの幸福

お昼ちょっと前に、なんの変哲もない町の蕎麦屋に入って、カレーうどんと小さなご飯を頼んで食べていたら、お昼を過ぎて入ってくる客、入ってくる客が、カレーうどんばかり注文するので、世の中にはカレーうどん好きが案外多いのかもしれ・・・

続きを読む

悪い仲間

一番好きな作家を挙げろといわれたら、真っ先に頭に浮かぶ一人が古山高麗雄であることは間違いない。 花粉が多い日に、かゆい目をこすりながら、書店をぶらぶらしていたら、安岡章太郎の文庫本がなぜかポンと置いてあったので、何の気な・・・

続きを読む

不思議な本

高田馬場の芳林堂書店に行こうと歩いていたら、あれっ、駅前のムトウ楽器店の看板に閉店セールと書いてある。これは大変と思って中に入ると、今までに見たことがないほど客が押し寄せていた。なにかめぼしいCDやDVDが残っていないか・・・

続きを読む

007になった先生

中学生の頃、上級生から聞いた英語のN先生の話に興奮したことを覚えている。N先生は陸軍中野学校でスパイの訓練を受けて南方で諜報活動をしていたという。英語の他にも数か国語に堪能で、拳銃やナイフも得意なので、CIAが誘いに来て・・・

続きを読む