コラム

崎陽軒のシウマイ弁当

クリント・イーストウッド監督・主演の映画『運び屋』が話題になっている。麻薬の運び屋になった90歳の老人が主人公である。クリント・イーストウッドの映画は決して期待を裏切らない。ダーティー・ハリーの面構えは、今も健在で、あの仁王様のようなたたずまいがいい。

 

旅行者が知らない男から荷物を頼まれて知らぬ間に「運び屋」にされて、「知らなかった」と供述しているという話は、ニュースなどでときどき報道される。そんな、知らなかったなんて話は眉唾だと思っていたが、そうでもないと思うようになったのは、自分が危うく「運び屋」にされそうになったからだ。

 

去年ウズベキスタンに行ったとき、スーツケースが届かず、翌日空港に取りに行くと融通の利かない警備員たちがなかなか中に入れてくれない。通りかかった優男風の空港職員に事情を話すと、ニコニコしながらどうぞどうぞと通してくれた。ああ、いい人がいてよかった。なんとかスーツケースも見つかって、押して出ていこうとすると、さっきの職員が手招きする。何だろうと思って行ったら、怪しそうな紙包みを抱えていて、これもいっしょに持って出ろという。さっきの優しそうな表情はすっかり消えて、ワルの顔になっている。どうしよう。一瞬迷ったが、ノーノーと押し返した。それから、出られるかどうか心配しながら、ともかく脇目も振らず出口へ向かい、手荷物チェックを受けて、急いで空港の外に出た。振り返ると男は射るような目つきでこちらを睨んでいた。

 

もしあの時、男のプレッシャーに負けて、紙包みを持って出ていたら、どうなっていただろう。今頃、遠いウズベキスタンの空の下、暗い刑務所の中に終身刑で囚われていたか、熱い砂漠の下に埋められていたか。

 

そんなことをつらつら思いながら、今日も崎陽軒のシウマイ弁当を食べている。シウマイ弁当の前は、素朴な海苔弁だった。夜中の張り込みを終えて早朝署に帰ってきた刑事たちが揃って海苔弁を食べる姿をテレビで見て、急に食べたくなり、どれどれと食べてみたら、う、うまい。しばらく海苔弁ばかり食べていた時期があったが、ここ2~3年はもっぱら崎陽軒のシウマイ弁当である。シウマイが特に好きなわけではない。弁当が特に好きなわけではない。しかし、崎陽軒のシウマイ弁当は好きなのだ。