コラム

仁義礼智信

二十年ほど前になるが、ある会館の五つの部屋の命名を頼まれて、儒教の五つの教えである仁義礼智信からとって、それぞれの部屋の名称にしたことがあった。仁の間、義の間、礼の間、智の間、信の間の五つである。二つを合わせて使うときは・・・

続きを読む

昭和最後の秋のこと

宇宙とは「時空」の意味だと今まで思わなかった。宇宙と聞くと、銀河の向こうに広がる宇宙空間のことしか思い浮かばなかった。古代中国の『淮南子』という本に、宇宙の宇は上下四方の空間をいい、宙は古往今来の時間をいうと書いてある。・・・

続きを読む

人は何故それを背負うか

背中にリュックを背負っているリュック族がじわじわと増えている。電車の中などで、前にも後ろにも、右にも左にもリュック族がいて囲まれてしまうと、なんだか終戦直後の買い出し列車を思い出しそうになる。といっても、実際は知らないの・・・

続きを読む

生き恥をさらすということ

「司馬遷は生き恥さらした男である。」の書き出しで始まる武田泰淳の『司馬遷』に、歴史家の兄弟の話が出てくる。時の権力者がその君主を殺した。歴史家がそのことを記録したら、けしからん奴だと権力者は殺してしまった。すると歴史家の・・・

続きを読む

元号の話

平成の元号を決めるときには、他に「修文」と「正化」という二つの候補があったそうである。しかし、ローマ字表記の頭文字がどちらも「昭和」と同じ「S」になるので、不都合ではないかという意見もあり、全員一致で「平成」に決まったと・・・

続きを読む

番狂わせの一番

横綱稀勢の里の調子が悪い。優勝してあちこち引っ張り出されているうちにすっかり脇が甘くなり勝てなくなってしまった琴奨菊に比べると、稀勢の里は意識して脇を締めているようなところがあって、まさか琴奨菊の二の舞になるようなことは・・・

続きを読む

人間嫌いと短命の関係

本は二度も三度も読んで初めて本当に読んだことになるんだという気持ちにさせられたのは、森鴎外の『渋江抽斎』を何度も読んでからである。読み終えてしばらく経つとまた読み返してみたくなり、いつの間にかページをめくっていて、他の本・・・

続きを読む

里山という幻想

『東京へゆくな』という谷川雁の詩がある。「東京へゆくな」のフレーズの次は、なんだったか思い出せないので、調べてみたら「ふるさとを創れ」だった。まるで政府の「地方創生」を応援するようなフレーズだが、谷川雁が筑豊の中間に住ん・・・

続きを読む

あんみつと大仏

湯島へ行った帰り、道を探しながら歩いているうちに、そうだ、あそこへ寄ってみようと思い立った。若いとき、夏休みにアルバイトをしていた店で、今も営業していると知って、機会があったらいつか訪ねてみようと思っていたのだ。あらため・・・

続きを読む

一生を棒に振る

ホトトギス社に勤めているという女の人から前に名刺をもらったことがあったなと思って、名刺の束をひとしきり探してみたが、出てこなかった。ホトトギスといえば、正岡子規、高濱虚子から今に続く俳句雑誌で、夏目漱石が明治38年に『吾・・・

続きを読む

それを猟師が鉄砲でうってさ

最近本で読んで、人に話さずにいられない面白い話がある。栃木県足利郡吾妻村の龍光院というお寺に、古くから貨狄(カテキ)様と名付けられた木像があって信仰を集めていたそうだ。もともとは村の清右衛門という者の家にあったのを寺に納・・・

続きを読む

仮面の酷薄

イスラム圏では、女性たちが顔を隠していたベールを外しつつあるというのに、日本ではマスクをして顔を隠す女性が増えているのはどうしたことだろう。ある日、電車に乗って、向かいの席の乗客を見たらほとんどの女性がマスクをしていたの・・・

続きを読む

下駄屋の主人

一枚の絵に強く引き付けられた。重松鶴之助という作者の「閑々亭肖像」という絵である。黄色の着物を着て藍色の帯を締めた、どうということのない和服姿の中年男を斜め前から描いている。小林秀雄に今一番の評論家だと言われ、芸術新潮に・・・

続きを読む

トランプとピケティの関係

武力や富による支配には命がけで抵抗する世界の人たちが、知による支配にはなぜ反発しないのか常々不思議に思ってきた。その理由としては、まずほとんどの人が子どものうちから学校で知による選別を徹底的にたたきこまれ、知による階層化・・・

続きを読む

思い出の歌声喫茶

矢切の渡しのこちら岸は葛飾柴又だが、向こう岸は千葉の松戸だということを初めて知った。松戸に講演で行った折、夜の懇親会の席でのこと。古い世代で『矢切の渡し』といえば、大ヒットした歌謡曲の曲名である。細川たかしの「連れて逃げ・・・

続きを読む

センチメンタル・ジャーニー

確かこの倉庫が立っているあたりに、あのころは土俵があった。田舎に帰ったついでに、昔住んでいたあたりにみんなで行ってみようということになり、車を飛ばして来てみたのだ。今は市町村合併で地名も変わり、家ももちろん建て替えられて・・・

続きを読む

大いなる謎

自然界に雄と雌があるのはなぜか。ほんとうのところは理由がよくわかっていないと知って驚いた。雄と雌があるのは、ほとんど当然のこととして疑問に思うことがなかったからである。しかし、自然界には雄と雌の区別がない無性生物も多く存・・・

続きを読む

誰よりも世俗的な日本人

価値観とは、人が何に価値を認めるかということだが、世界の人々を対象に行われる「世界価値観調査」というのがある。2005年に行われたアンケート調査の結果を見ると今更ながら驚く。 調査では、世界80カ国以上の人々に対して、次・・・

続きを読む

トイレの話

このところぐずついた天気のわりに、なかなかどーんという雨が降らず、東京の水がめが干上がりつつあると聞くと、責任者でもないのに、いささか心配になる。昔、沖縄の那覇にいたころ、一度だけ水不足を経験した。といっても、覚えている・・・

続きを読む

水に落ちた犬

 現代は異常な時代である。といっても、そんなことはもうみんな知っているよといわれそうだが。私が思う現代の異常は、私たちの周りにあふれ返るおびただしい数の写真や画像である。人類の歴史に初めて写真が登場したのは、1826年で・・・

続きを読む

過去こそが大事

湯布院の森号に乗って友人たちと湯布院に向かう途中、日田を通る。日田にはむかしタモリがいてボウリング場の支配人をしていたんだという話をする。タモリは、それまで博多で生命保険の勧誘の仕事をしていたが、口が立つのが災いしてなか・・・

続きを読む

身の上相談

この世で一番恐ろしいものは何か。大地震? 津波?いやいや、大地震や津波よりも恐ろしく、人の営みを根こそぎ奪い尽くしていくもの。それは時代の変化である。 岩波文庫で出ている森鴎外の『渋江抽斎』が読みたくなり、高田馬場の芳林・・・

続きを読む

家族にいったい何があるのだろう

カンボジアの首都プノンペンに去年行ったときには、日本のうどん屋は一軒しかなかったが、今年は大手の丸亀製麺をはじめ十軒近くに増えていて、さながらうどん戦争の様相を呈していた。 そのカンボジアで聞いた話。カンボジアの人たちは・・・

続きを読む

ヒビの効用

子どもの頃、大鵬と握手をしたり、王や長嶋と一緒に写っている写真を持っている子がいたら、もうそれだけで、羨望を通り越して、一目も二目も置かれる存在だったろうと思う。私の周りにはそんな子はいなくて、せいぜいが雑誌か何かの抽選・・・

続きを読む

久くん、待ちにし

クリスマスが近づいて、クリスマスソングが聞こえてくる頃になると、前にも話したことがあるかもしれないけど、と断りつつ、いつも誰かに切り出す話がある。 あれは、中学に進んで初めてのクリスマスの時だった。親元を離れ、寮や下宿に・・・

続きを読む

戦争と人間

日本で戦争に反対する人が多いのは、その方が一般にウケがいいからである。空気が一変して、ウケるどころか非国民呼ばわりされるような社会になれば、きっと戦争に反対する人はほとんどいなくなるに違いない。 テレビのスポーツ中継を見・・・

続きを読む

いいこと思いついた

役所などに行くと机の上に積み上げられた書類の高さに驚かされることがあるが、今までで一番ドギモを抜かれたのは、作家の大城立裕氏を職場に訪ねたときだ。記憶をたどってみると、今から36年前で、そのころの大城氏の年譜に沖縄資料編・・・

続きを読む

結婚の条件

嫁を探しているがどこかにいい人がいないだろうかと聞かれたので、よしておけばよかったのだが、酒が入っていたせいもあって、「日本中どこを探しても、もういい人なんかいるわけがない、結婚は今の時代にはもう成立しなくなっているんで・・・

続きを読む

ビルマの事々

7月の終わりに5日間の予定でミャンマーの古都ピーに出張した帰り。ピーからヤンゴンへと続く道路の両側は前日から降り続いた激しい雨のせいで川のようになっていた。そこに軒を連ねている商店や家々も水につかって、なすすべもなく立ち・・・

続きを読む

日本軍の戦法

自分がもし大正時代に生まれて、徴兵され、招集されて旧日本軍の兵士となり、南方の戦地に送られていたらどうなっていただろうと想像するのは苦しい。結末がわかっているからである。 当時の兵隊たちは、自分たちの行く手にどんな運命が・・・

続きを読む