コラム

アクの店

2021年9月17日   イザベラ・バードの『日本奥地紀行』を読んでいたら、ふとアクの店のことを思い出した。『日本奥地紀行』は、明治11年に来日した当時47歳の英国人女性イザベラ・バードが日本の東北地方を旅して・・・

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戦争に行った話

2021年8月20日   顔を見て恐ろしいと思った。国の長になって、突然善き人になろうと思っても、そうは問屋が卸さないのである。善き人の表情を作ることはできても、善き人の語り口は伴わないのである。人は、生まれた・・・

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とらやの羊羹

2021年7月20日   あれはまだ長銀と呼ばれていた長期信用銀行があった頃だから、だいぶ前になるが、当時長銀の新宿支店にいた郷里の先輩の結城さんが、映画『男はつらいよ』の山田洋二監督を招いて何かのイベントを企・・・

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浪花節だよ、人生は。

2021年6月17日   ビルマ難民キャンプへと続く山道である。キャンプへは、2009年から毎年のように行っているが、何度同じ道を通ったことだろう。タイとビルマの国境沿い、タイ側の山岳地帯にへばりつくようにして・・・

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段ボールの箱、カマボコの板

2021年5月20日   第二次世界大戦中のフランスを舞台に、ドイツ軍に捕らわれたパルチザンの男たちが一人一人刑場に引かれていく。そんな不条理劇の脚本を書いて、高校演劇コンクールに出場したことがあった。受験を控・・・

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世界中、探したのか

2021年4月20日   若松町の女子医大の前だった。バス停の行列に見覚えのある人が並んでいた。学科の一年先輩で空手部の主将だった小沢さんだ。小沢さんには、私が落ち込んでいた時期に、ぽつんと控室にいたら、「田中・・・

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雨に咲く花

2021年3月19日   何年か前の俳人たちの飲み会で、突然誰かが言い出して、その場で一人ずつ歌を歌うことになった。カラオケも、歌詞カードもなく、そらで歌える歌を皆がレパートリーから引っ張り出してきた。 &nb・・・

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バベットの晩餐会

2021年2月19日   『バベットの晩餐会』の、映画を三度見て、原作を二回読み返した。映画は、19世紀末、デンマークの北海に面したユトランド半島の寒村が舞台である。つましく暮らしている老姉妹の家の晩餐会に、村・・・

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僕の会社

2021年1月20日   『警察日記』という昔の映画を見ていたら、田舎の警察署に「僕の会社」という額がかかっていた。「?」と思ったら、「僕の会社」ではなく、右から「社会の僕(しもべ)」と読むのだった。主演は、二・・・

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三碧会

2020年12月18日   ジョン・ル・カレが亡くなったというニュースが新聞に載っていたので思い出した。今から40年以上も前になる。職場の先輩のOさんから、『寒い国から帰ってきたスパイ』を読んだかと聞かれたのが・・・

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マサチューセッツに帰りたい

2020年11月20日   ビージーズの『マサチューセッツ』を久しぶりに聞いたら、懐かしさがこみ上げてきてまいった。調べてみると1967年から68年にかけてヒットした曲だった。どうりで。むかし、1960年代で時・・・

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おはよう

2020年10月20日   小津安二郎の映画『おはよう』に出てくる中学生と小学生の兄弟が着ていたおそろいのセーターが、むかし母親がブラザーの編み機で編んで私と弟に着せていたセーターと似ているのに気が付いた。横に・・・

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ウサギの一生

2020年9月18日   家で飼っているウサギに思いのほか大きな腫瘍ができて手術を受けた。それで治るかどうかわからないとも、手術のショックで死んでしまうかもしれないとも、宣告されたというので、そんなかわいそうな・・・

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ヒョンビンと私

2020年8月20日   韓国の財閥令嬢が乗っていたパラグライダーが、突然の竜巻で北朝鮮まで吹き飛ばされ、木に引っかかっているのを北朝鮮軍将校に見つかり、慌てて落ちてきたところをキャッチされる。韓国ドラマ『愛の・・・

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歴史の教科書

2020年7月20日   高校の世界史の教科書をわかりやすい英語で書いた本が出ていて、読んでみると新鮮に感じられてしばらく没頭した。日本語の世界史は今更通読する気はしないが、これなら通して読める。年を取ったせい・・・

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ラジオのある風景

2020年6月22日   食い物の恨みは怖いといっても、現代の私たちにはなかなかピンと来ない。今は飽食の時代で、食べ物にあふれ、大量の食品ロスをどうするかの方がむしろ問題になっている。しかし日本でも、戦争末期か・・・

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地上の幸福

2020年5月20日   事務所の井田さんのお兄さんは井田茂という天文学者である。いつだったか、何の気なしにテレビを付けたら出演していて、きれいさっぱりと何もない大学の研究室が映っていた。インタビューに来ていた・・・

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サルも馬鹿にできぬ

2020年4月20日   世情騒然としている中で、内田樹の『サル化する世界』を読んだ。サルは、朝三暮四のあのサルである。中国の春秋時代、宋の国にサルを飼っている人がいて、朝夕四粒ずつのトチの実を与えていたが、節・・・

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けなげで可憐な生きもの

2020年3月19日   寒いねと話しかければ、寒いねと答える人のいる暖かさ。昭和62年に出版された俵万智の『サラダ記念日』に出てきたこの歌は、寒い日には今も口をついて出るが、この感じは、もう今の時代のものでは・・・

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日本の橋

2020年2月20日   靖国神社の大鳥居を見上げながら、私はふいに若い頃読んだ保田輿重郎の『日本の橋』のことを思い浮かべた。それは、こんな書き出しで始まる。   「東海道の田子浦の近くを汽車が通ると・・・

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駅・詩篆絵書音

2020年1月20日   文人というのは、漢詩、書などの他に、画と篆刻ができて、初めてそう呼ばれる資格があると前に聞いたことがある。文人たらんとする者にとって、漢詩と書はありえても、画才に加え、篆刻まで物するの・・・

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ローズヒップの実

2019年12月20日   永い打ち合わせの席でコーヒーにも飽きて、メニューを見たらローズヒップティとあったので、注文してみた。味は、可もなし、不可もなしである。ローズヒップというのは、なんだろう。調べてみたら・・・

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その顔が見たくてならない

2019年11月20日   頼山陽の書は、「なんでも鑑定団」に出品されて、百万とか二百万の高い評価が付くこともあれば、偽物として五千円で片づけられることもある。頼山陽とは、そも何者ぞ。頼山陽は、広島藩の儒学者の・・・

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座右の地図帳

2019年10月18日   人には「座右の辞書」が必要だが、「座右の地図帳」も欠かせない。ナチス・ドイツものを読んでいて東プロイセンが出てきたとき、どこにあるのかを確認できなければ一知半解にとどまるからである。・・・

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走れメロン

2019年9月19日   日本を代表する作家というと、夏目漱石や谷崎潤一郎、川端康成などを連想する人が多いと思うが、彼らは立派すぎて私は挙げる気にならない。私が日本を代表する作家として連想するのは、太宰治である・・・

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真夏の出来事

2019年8月20日   真夏の夜は、やはりビールである。コップに注ぐたびに、白い泡が湧き立ち、乾杯のたびに白い泡が揺れる。誰かに言わせると、ビールは人に注いでもらって飲む酒だそうだ。それが呪文のように効いたの・・・

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きびなごの刺身

2019年7月19日   九州のある町の炭鉱住宅に私は住んだことがある。1975年の春、私は人を探してかつて炭鉱のあったその町に辿り着いた。Mさんという作家のところに、いるかもしれないと思って訪ねたのだが、見当・・・

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イロクォイ族の誓い

2019年6月20日   たまに立ち寄っていた本屋がなくなって、ドラッグストアに変わっていた。自己啓発本やノウハウ本ばかりの本屋だったが、それでもないよりはましだった。いっそのこと政府が文化財として補助金を出す・・・

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特例適格特別指定特定認定制度

2019年5月20日   辞書を引くのは、楽しい。なぜ、楽しいのか。辞書を引くときには、自分がいたらないことを認めて、降参して頼っているという感じが、思わず知らず絶対者に帰依しているような充足感を引き出されてい・・・

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崎陽軒のシウマイ弁当

2019年4月20日   クリント・イーストウッド監督・主演の映画『運び屋』が話題になっている。麻薬の運び屋になった90歳の老人が主人公である。クリント・イーストウッドの映画は決して期待を裏切らない。ダーティー・・・

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