コラム

熱のこもった話

1997年9月20日

会計士というとほとんど押し黙って電卓をたたき続ける貝のような一生を想像し、それに心惹かれるような気持ちを持った時期もあった。自由闊達に話ができればいいと思うが、なかなか思ったとおりには言葉がでてこない。後でああ、あの言葉がでてこなかったのだ。この言葉も。というようなことを、思い返すのはしんどい。言葉がでてこないときは黙っていればいいと最近は開き直っている。9月に7時間の講演をする機会があった。話す方より聞く方がつらいのではないか、と頼まれたときから思った。お金を払って、泊まり掛けで来る人たちにつまらない話を聞かせては申し訳ない。準備はそれなりにしたつもりだったが、時間が長いせいか予定通りにはなかなかいかない。準備した話の材料が早くに出尽くしてしまい、あとはアドリブで乗り切るしかなかったが、かなりの冷や汗ものだった。しばらくして、また頼まれたから、そんなに悪くはなかったのだろう。1月に3時間の講演をしたときには、38度の熱があった。「世界各国の租税制度とわが国租税体系の特徴」という、むしろ自分が聞きに行きたいくらいのテーマに、身体の方が躊躇したのかもしれない。終わってから、「大変熱のこもった話で席を立つ人もいませんでした」といわれたのが、なんともおかしかった。