コラム

もてない男

1998年11月20日

 

日本経済の先行きは暗く、米国経済は依然として好調である。どうしてそうなったのか、エコノミストを囲む会で誰かが質問した。だが、なるほどという答えは返ってこなかった。そこで、天邪鬼流に考えてみた。アメリカでハサミを買ったときだが、あまりに切れ味が悪いのに驚いた。アメリカ人はモノづくりに必要な丁寧さに決定的に欠けているなと感じた。しかし、コンピュータの発達はアメリカ人の粗忽さを見事にカバーする役割を果たした。そのことが米国経済の成長を促したとみるがどうだろうか。

日本でも2匹目のどじょうを狙ってコンピュータ、コンピュータとうるさいが、こっちはちょっと違うのではなかろうか。日本人はもともと細かい丁寧さは備えている。そこへさらに細かく細かくと言われてもかえって息が詰まるばかりだ。むしろ今の日本人に欠けているのは、大雑把さ、大胆さだ。大草原のカウボーイのようにもっと大雑把に、大胆に生きる。そういう風土、文化を作り出すことが日本の再生につながるのではないか。そういえば、明治期の日本人は今からは考えられないほど大胆だった気がする。
江戸時代に日本では人が乗って走る車は見られなかった。考え付かなかったわけではない。8代将軍吉宗が出した新奇製造物禁止令のせいである。それで江戸時代の経済成長はストップしてしまった。これに並ぶのが、平成の地価上昇禁止令である。海部内閣、宮沢内閣の時の土地バッシング政策だが、それで平成の経済成長はストップしてしまったとみる。日本では土地に引っ張られて成長してきた経済の足を政治的に、また社会的に切り落としてしまった。萎縮した社会がそういう政策を支持したのだが、エコノミストも、どうもそのことがしっかりわかっていないようだ。

それはともかく、本屋に行くと「もてない男」という新書が平積みしてあった。心当たりのある人がみんな買っていくのだろう。自分では心当たりはないが参考のために読んでみた。ところが「もてない男である」著者は、東京ディズニーランドに行ったことがないという。いやなことを言う人だ。実は、東京ディズニーランドに行ったことのない人が、ここにもいる。