コラム

たこ焼きの正しい食べ方

2000年2月20日

 

「ぶらり途中下車の旅」と言ったと思うが、土曜のちょっと遅い朝にやっているテレビ番組がある。東京近辺のなじみのある駅が登場するので、ついチャンネルをあわせてしまう。この間は、上野から池袋までの山手線の旅をやっていた。日暮里とか駒込、巣鴨、池袋など、ときどきは降りることもあるが、結構気付かない穴場があるものだ。

高田馬場から東西線に乗って阿佐ヶ谷の蕎麦屋に月に一回くらい食べに行く。静かですいているからいいのだが、あまり客がいないと店がなくなりはしないかと心配になる。帰りがけに、途中下車して中野で降りてみる。ここまでは人気の中央線の旅でもある。中央線沿線のことを書いた本がなんでもベストセラーになっているらしい。

中野北口のサンモールをまっすぐ進んで、ブロードウェイセンターというビルに入ると、香港の古いショッピングセンターにでも迷い込んだような雑然とした空気に呑み込まれる。衣類や雑貨、玩具などの店に混じって、テレホンカードの専門店や間口の大きいコインショップなど、ほかの商店街ではあまり見かけない店がある。ひときわ目を引くのは『まんだらけ』という古本の漫画専門店である。どんなものかと入り口をくぐってみると中は思いもよらず巨大である。意外に家族連れなども多く、店は客でごった返している。おおそうだ、せっかくの機会だからあれでも探してみるか。実をいうと若い頃の一時期漫画の原作で糊口をしのいでいたことがある。その頃出した単行本の一つがけっこう値をつけていると聞いている。

結局、見つからずにサンモールを帰ってくると、駅前のたこ焼き屋に行列ができている。人気の店らしい。何人もの店員がたこ焼きをひっくり返すのに余念がない。「田中さん、僕達は幸せですね。ああやって一生たこ焼きを焼きつづける人生もあるんですよ」。昔、出張先の難波のたこ焼き屋の前で、年下だが先輩の会計士がそんなことを言っていたのを思い出した。その夜のたこ焼きは、たこ焼き屋の人生がしみついている気がして心なしか少し苦い味がしたが、彼は今も幸せでいるだろうか。

いつのまにか、駅頭に選挙カーが来ていて、ハトヤマ氏が甲高い声を張り上げている。あっちへ行ってくれと言いたくなった。代議士を選挙で選ぶ代議政治はそろそろ終わりに近づいているんだなあと感じる。