コラム

大阪暮色

2012年11月20日

 

今月の初めに大阪に行ったときに、ふらっと千日前のあるレトロな本屋に入ったら、店主の視線が粘りつくような感じで、なんだか本の一冊も買わずに帰れない雰囲気だったので、しょうがなく、そこにあった『B層の研究』という新刊の本を買った。

B層は、「マスコミ報道に流されやすい比較的IQが低い人たち」のことを指している。2005年9月の郵政選挙のときに、小泉自民党の依頼で広告会社スリードが作った企画書に登場して一躍有名になった。この企画書では、IQが高いか低いか、構造改革に肯定的か否定的かで、国民をA層、B層、C層、D層の4種類に分類して、分析を加えているため、あとで国民を愚弄していると批判されたが、小泉自民党は、B層に向けて単純な言葉やイメージを集中的にぶつけていくという手法で票を集め、歴史的大勝利をおさめたことで知られている。企画書も悪趣味なら、そのB層をさらに研究するというのも悪趣味だが、ヒトは悪趣味が嫌いではない。

書店を出て、千日前をぶらぶらしたが足が疲れたので、コーヒーの青山という店に入った。コーヒーの青山は、前日見つけて入ったのだが、看板が「洋服の青山」と似ていたので、何か関係があるのだろうかと思って店の人に聞いたら、怪訝そうな顔で何にも関係がないという。

好物のウインナーコーヒー、といっても大阪のそれはコーヒーの上にコテコテにクリームが載っていて、あまり好物とはいえなかったが、とりあえずそれを飲みながら、『B層』のページをパラパラとめくった。「B層は鮨屋でネタの産地を尋ねる」とか「B層は鮨屋でアガリなどの符丁を使う」とか、一昔前の漫才ネタのようなことが書いてあるが、少しもくすぐられないところが悲しい。

さてと腰を上げて、暮れなずむ難波の界隈を歩く。「西日で焼けた畳の部屋、あの人がくれた花瓶♪」、桂銀淑が歌う大阪暮色がどこからか聞こえてきそうな気がして、このまま、どこかの路地の奥にかき消えてしまう運命もあるのだろうか。そんなことを思わせる大阪の哀愁漂う街並みだった。