コラム

人類の知性

2012年12月20日

 

世界中で6,200万部も売れているという。スウェーデンを舞台にしたミステリー小説『ミレニアム』である。本屋に平積みしてあるのを横目で見ながら、人口に膾炙しすぎている気がして、なんとなく避けてきたのだが、「こういうのが結構面白いのかもしれない」と手に取って、最初の1ページをめくったら、もういけない。そのまま完全に引き込まれて、分厚いハヤカワ文庫の全6冊を読み終わるまで、熱病に浮かされたように没入してしまった。

ミステリーは、ただでさえ登場人物が多くてなかなか憶えきれないと相場が決まっているのに、『ミレニアム』には、ルムクヴィスト、パルムグレン、フィグエローラ、エルランデルなどなど、覚えにくいスウェーデン名の関係者が毎回30名ぐらいずつ登場する。あれ~、どっちがどっちだったっけ。ときどき前に戻ったりしなくてはならないが、そんなことが全く苦にならないほど、読ませる、読ませる。しかし、作者のスティーグ・ラーソンは、この本が世界中で大ブレイクする前に、50歳で心筋梗塞になって亡くなった。

『ミレニアム』の魅力は、なんといっても主人公のリスベット・サランデルにつきる。痩せぎすの体に大きな竜の刺青を入れ、両耳に10個ほどのピアス、鼻と眉にもピアスを付け、髪を逆立てている、いわゆるヤンキー風の20代の女性だが、驚異的な頭脳の持ち主と来ている。高円寺の私の通勤路に刺青屋なるものがあって、その前に張ってあるポスターの女性が、私の思い描くリスベットのイメージである。

『ミレニアム』の熱病が去ってから、どんなミステリーを読んでも、つまらなくて困っている。おそらく、リスベットの毒気にあてられたせいで、平凡な主人公ではもう飽き足りなくなってしまったのだろう。

ところで、ある研究によると人類の知性は2000年~6000年前がピークで、それ以後は下がり続けているという。当然である。自分の脳に思考を刻み付けて生きるしかなかった古代人の知性に、コンピュータや携帯をチョコチョコやるしか能がなく、新聞やテレビに考えが左右される現代人が、かなうはずがないのだ。