コラム

悪い仲間

2013年3月20日

 

一番好きな作家を挙げろといわれたら、真っ先に頭に浮かぶ一人が古山高麗雄であることは間違いない。

花粉が多い日に、かゆい目をこすりながら、書店をぶらぶらしていたら、安岡章太郎の文庫本がなぜかポンと置いてあったので、何の気なしにパラパラめくったら、『悪い仲間』が出てきた。安岡の初期の短編だが、たしかここに古山高麗雄が出ていたよなあと思いながら、『悪い仲間』の中を探すと、いるいる。高麗彦という古山高麗雄をモデルにした人物が出てくるのだ。

そんなことで思い出して、急に古山高麗雄が読みたくなって探したら、本が手もとに一冊もないことに気が付いた。そういえば、古山高麗雄がよく書いていたころ、単行本は銭湯の帰りにいつも貸本屋で借りて読んでいたし、雑誌は読み飛ばして捨ててしまっていたからなあ。

しかし、古山高麗雄がないのは私の本棚だけでなく、本屋の棚にもなかった。これはいかんと近くの古本屋を探したが、やはりなかった。

昨年の暮れに、よく通っていた俳人の集まる店が閉店した。毎年この時期には店の常連が集まって花見をしたものだったと思うだけで寂し

い。何年も前になにかに書いた花見の情景を読み返してみた。

 

今年も楽しみな花見の時期が近づいてきた。桜並木の川べりの土手にゴザを敷いて待っていると、三々五々みんなが食べ物や飲み物持参でやってくる。十郎さんは自転車にコンロと鍋を積んで、松ちゃんは両手に一升ビンと缶ビールをぶら下げて、マリーさんは早起きして作った煮しめを大きなタッパーに入れて、タエコさんのお母さんは自慢の漬物を持って現れる。わいわいがやがや、アツコさんも来ればよかったのにねとか、セイさんたちにはちゃんと声をかけたのとか、他愛もないおしゃべりをしながら、十郎さんのトン汁が出来上がるころには、20人ぐらいに増えている。観客がうちそろったところで、シショウの幇間芸の開演となる。シショウの芸はいつも同じで、なかなかレパートリーが増えないが、それはみんな言わないようにして。そこへ昔の松本伊代に似ている留学生の李さんがひょっこりやってくると、座は一気に盛り上がって、楽しい花見はまだまだ続くのである。