コラム

ヒビの効用

2016年1月20日

 

子どもの頃、大鵬と握手をしたり、王や長嶋と一緒に写っている写真を持っている子がいたら、もうそれだけで、羨望を通り越して、一目も二目も置かれる存在だったろうと思う。私の周りにはそんな子はいなくて、せいぜいが雑誌か何かの抽選で当たった大鵬や王、長嶋の色紙を持っていた程度だったが、それでも、半目ぐらいは置かれる存在だった。私はといえば、もちろんそういう立場になったことは一度もなく、持っている子と仲良くなって、色紙を見せてもらうぐらいが関の山だった。

しかし、苦節ウン十年、私にもやっと胸を張れる時が来たのだ。先ごろ亡くなった北の湖といえば、「憎らしいほど強い」といわれた稀代の大横綱で、訃報を伝える新聞には「日本の宝」とまで書かれていたが、その北の湖と私は握手したことがあるのである。もう二年ほど前のことだが、両国の国技館の中にある日本相撲協会の応接室に案内されて、行ってみるとそこにあの北の湖が待っていた。大きな人だなと見上げながら、真っすぐに見つめる目の力と、握手したその手の大きさに感じ入ったことを覚えている。北の湖は、そのたたずまいがほんとうに「男の中の男」であり、「日本の宝」だったと思う。

ところで、スマホを使いだしてもう5年以上になるのだが、すっかり慣れ切ってしまい、ぞんざいに扱っていたら、道路に落として画面がヒビだらけになってしまった。そのまま使い続けていたら、いいことに気が付いた。もう前ほど、スマホを見なくなっていたことである。また、スマホを見なくてもちっとも困らないことにも気が付いた。それであることに思い当たった。いま、問題になっている「歩きスマホ」や「スマホ依存症」だが、防止するには画面にヒビを入れればいいのである。まあ、ホントのことを言うと、ヒビを入れないまでも、画面を見にくくすればいいのである。しかし、こんなことを言うと、世を挙げて画面をより見やすく、よりきれいにしようと努力しているのに、水を掛ける、天邪鬼な奴だと嫌われるのがオチだろう。