コラム

久くん、待ちにし

クリスマスが近づいて、クリスマスソングが聞こえてくる頃になると、前にも話したことがあるかもしれないけど、と断りつつ、いつも誰かに切り出す話がある。

あれは、中学に進んで初めてのクリスマスの時だった。親元を離れ、寮や下宿に寄宿して学校に通っている生徒にとっては、僕もそうだったが、待ちに待った冬休みだった。その冬休み前の二学期最後の日のクリスマス祭。全校生徒が朝から講堂に集まって、クリスマスソングや賛美歌を歌ったり、校長先生の話を聞いたり、寸劇を見たりして過ごし、最後に紅白のまんじゅうをもらって、それぞれ家路につくのである。なぜ、クリスマス祭に紅白のまんじゅうなんだろうとその頃は思ったが、なにしろ鹿児島の片田舎のことで、ケーキとかクッキーとか気の利いたものがその辺にはなかったのだ。

それはさておき、僕が話したいのは、歌のことである。歌は、学校から歌詞カードが配られ、それを見ながら音楽の先生の指揮に合わせて歌うのだが、その中には知らない歌や、英語の歌なども入っている。知っている歌は思いっきり元気よく歌えるが、知らない歌や英語の歌は、上級生が歌うのに合わせて、口をぱくぱくするだけである。そうして、何番目かの歌に『もろびとこぞりて』が登場した。『もろびとこぞりて』は、いまでこそ誰でもが知っているポピュラーな歌だが、その頃の中1坊主の僕にはなじみがなかった。

それでも、この歌は最初からリズミカルで口を合わせやすい。

「もろびとこぞりて、迎えまつれ~ ♪

久しく、待ちにし~ ♪ 」

歌いながら、僕は、「えっ」と思った。小学校時代、僕には久くんという仲のいい友達がいて、いつも行き帰りが一緒で、取っ組み合いのケンカをしたこともあったけど、欠かせない友達だった。その「久くんが、待ちにし」、僕の帰りを待っていると聞こえたのだ。とたんに、我慢していたホームシックな気持ちがこみ上げてきて、泣きそうになるのを懸命にこらえた。それ以来である。クリスマスが近づいて、『もろびとこぞりて』が聞こえる頃になると、久くんのことや、遠い昔のクリスマス祭のことを、思い出さずにいられない。