コラム

金正恩氏の髪型

「僕の髪ぃ~が肩まで伸びて~」と歌う吉田拓郎の『結婚しようよ』が流行っていた頃、私の髪も肩ぐらいまではあった。それが今では風前のともしびである。全部なくなってしまった頃、『お葬式しようよ』となるのだろうか。

 

名は体を表すというが、髪はいったい何を表すのか。若い人の弾むような髪の動きを目にすると、生命力という言葉が浮かんでくる。子どものころ、ニュースで女子高生の髪の毛をハサミで切って捕まった初老の男のことを聞いて、意味が分からなかったが、今なら少し分かるような気がする。男は、失われゆく生命力を手に入れたかったのか。

 

髪型で変なのというと、まず丁髷(ちょんまげ)である。時代劇などでよく見る丁髷は、飛鳥時代に冠や烏帽子をかぶる文化が中国から入ってきて、頭の蒸れを防止するために、ポニーテールのように髪をまとめて後頭部で束ねた形から発展したものだという。やがて武士の時代になり、合戦で兜をかぶると、蒸れがひどいために、前頭部から頂頭部にかけて髪をそり上げて兜をかぶるようになった。そして、戦国時代にはそり上げた部分の月代(さかやき)と結った部分の髷(まげ)のスタイルがすっかり定着し、江戸時代にはそれが町人や農民にも広がった。

 

中国の清の時代の辮髪(べんぱつ)も、かなり変だ。しかしこれも丁髷と同じように、兜をかぶった時に、頭が蒸れるのを防ぐために髪を抜いたり剃ったりまとめたりしたことに起源があるとされている。清朝では、辮髪を拒否する者には死刑を以って臨み、「頭を残すものは、髪を残さず。髪を残すものは、頭を残さず。」といわれたそうだから、髪型も命がけである。

 

最近では、やはり金正恩氏の髪型が群を抜いて変だ。この点では、さしものトランプ氏も後塵を拝していることを認めなければならない。金正恩氏の髪型は覇気を感じさせる「覇気カット」というらしいが、頭に載せている黒電話の受話器のようだというので名付けられた、もう一つの呼び名の黒電話カットの方がピンとくる。それにしても、あの黒電話カットにはどんな意味が込められているのか。答えは簡単には見つからない。