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田中義幸著「宗教法人の経理と税務」(ぎょうせい/2,300円)が発刊されました。

 

はしがき

 

私が宗教法人の税務や会計に深く関わることになったきっかけは、平成元年に宗教法人の席貸業をめぐる税務当局の課税処分に不服申立をしたことでした。それから、かれこれ30年近く宗教法人に関わってきました。その間に、『宗教法人会計の指針』の策定にも携わりました。振り返ると、この30年は私が髭を生やし続けてきた期間と重なります。そこで、宗教法人とかけて、髭と説きます。その心は、どちらも神(髪)の下に栄(は)(生)える。

 

さて、この30年で私たちの社会も随分変わりました。一番変わったのは私たちの職場の風景ではないでしょうか。朝出勤して誰もがパソコンに向かう風景を30年前に一体誰が想像したでしょう。電車の中の風景も変わりました。乗客が揃ってスマホの小さな画面を見つめている風景を一体誰が予想したでしょう。街中でデイサービスの車が人を載せたり降ろしたりしている風景も30年前にはありませんでした。高齢者向けの拡大ルーペの宣伝もそうですが、機械搬送式納骨堂のテレビコマーシャルも30年前にはありませんでした。

 

しかし、変わらないものもあります。親子の縁。兄弟の仲。夫婦の関係。つまり、家族の存在です。これは、30年前と基本的なところはまだ変わってはいません。よくいう、血が水よりも濃いものである限り、切れることはなく、続いていくのでしょう。とはいえ、家族の中身は大きく変質してきました。非婚化や超高齢化社会の進展によって、単身世帯がみるみる増加して、社会の主流を占めるようになってきました。

 

それが宗教法人の在り方にも大きな影響を及ぼしています。どんな影響を及ぼしているかというと、次のようなことではないでしょうか。

 

◆人口減少社会に突入した我が国の社会構造、家族構造の大きな変動の波が、伝統的な宗教法人の屋台骨を揺さぶるようになってきました。

◆墓を整理する「墓じまい」や仏壇の処分をする人が増え、墓じまいサービスの業者には、改葬手続き依頼とともに寺院との離檀料などの相談が急増しています。

◆過疎化が進む地方では、檀家数、信者数等の減少により寺院が維持できなくなり、生き残りをかけて、東京などの大都市に進出し、なりふり構わない事業を展開する宗教法人なども出てきています。

◆高齢化は宗教法人の組織にも大きな影響を及ぼしています。カソリック系の修道会では、修道士などの高齢化により修道院の維持が困難になっているほか、少ない理事者でも運営できるよう系列の大学や高校の学校法人を合併させている例もあります。

◆少子化とともに進む核家族世帯の増加、単独世帯の増加が、伝統的な墓地の存続を危うくし、機械式納骨堂を登場させましたが、それが固定資産税や都市計画税の非課税に値するのかどうか、あらためて問われることになりました。

◆家族の後継者難などからシャッター街化する商店街を尻目に、外国人観光客のインバウンド需要に沸く浅草仲見世通り商店街。家賃をめぐる騒動の裏には、宗教法人の固定資産税の問題がありました。

◆子どもが減り、家族が減る一方で、ペットの家族化が進行しています。宗教法人が営むペットの霊園は増えましたが、そこにはやはり固定資産税と法人税の課税の問題がひかえていました。

◆親族間の争いの末に猟奇的な結末で世を驚かした富岡八幡宮事件。それは、宗教法人の事業承継の複雑さをあらためて浮き彫りにしました。

◆少子高齢化による墓地離れが進む中で、墓地の管理料は課税の対象になるか。近年の裁判所の判決では消費税は対価性がある取引として課税、法人税は国税不服審判所の裁決では請負業として課税との判断が示されています。

 

本書は、このように時代の変化が宗教法人に及ぼしている影響をできるだけとらえながら、宗教法人の税務や会計にはどういう問題があり、どういう対応をしたらいいか、といった点について述べたものです。宗教法人の運営に携わる皆様や、税理士、公認会計士等の専門家の皆様の参考にしていただければ幸いです。