コラム

二つの贈与税

2003年8月20日

 

たまには、税金の話をひとつ。

最近あらためて思ったんですが、贈与税というのは“贈与させない税”のことだったんですね。110万円の基礎控除というのがありますが、あれは小額不追求といって、まあ少々の贈与は目をつぶりましょうといっているわけで、ある程度まとまった財産の贈与になると、罰金のように高い贈与税が障害になって贈与させない働きをしています。税法は、個人の持っている財産は出来れば相続という本道だけを通って移転してほしいと考えているようです。ですから、相続以外のわき道から流れ込む財産に対しては、誰からの贈与であれ、贈与税の壁を作って防いできたのです。それでも贈与したければおやりなさいと、その代わりその高い贈与税を払った財産については、それで完全に無罪放免でした。

ところが、平成15年の贈与から採用されている相続時精算課税は、これとはまったく性質が違います。ある程度まとまった財産の贈与をしても、贈与税は2,500万円あるいは住宅取得資金の3,500万円の特別控除をした上で、税率は一律20%とうんと低く抑えられています。何が違うのかと言うと、こちらは、今までの贈与させない贈与税と違って、実は“贈与させる贈与税”になっているんですね。

この制度は、相続が確実に起きる親子間だけに限って、相続という本道を通るべき資産を先に通しておくだけの話ですので、贈与税といっても相続税の予納分に過ぎないのです。ですから、贈与税を払っても、“贈与させない贈与税”と違って、相続できちんと精算されるまではヒモがついて回ります。足りない場合には不足分を払い、払いすぎた場合には還付されることでも、相続税の予納分であるとわかります。

贈与を受ける人は、申告・納税する場合に、いままでの“贈与させない贈与税”のままでもいいし、“贈与させる贈与税”、つまり相続時精算課税を選択することも出来るわけですが、父だけ選択して、母の方は選択しないとか、兄弟のうち兄は選択して妹は選択しないとか、誰と誰との間で選択するのか明確にしておかなければならないというのも、一度選択したらもう撤回はできないというのも、実はこんな具合に二つの贈与税がまったく性質の異なるものだからと言っていいでしょう。

相続時精算課税は、相続税・贈与税の一体化措置と言われているように、分離した財産を一体で課税する点や選択の仕方など、なんだか法人税の連結納税制度の仕組みに類似している気がするんですが、そう思うのは私だけかもしれません。