コラム

サンタのひげ

2003年12月20日

 

あわただしく1年中走っていたような年だった。師走というのはそのことを深く自覚し反省する月なのかもしれない。そんなある日、西洋史が専門の偉い先生に浅草の「どぜう屋」に連れて行っていただいた。そして一緒につついたのが、ねぎを大量に入れて七味と山椒で食べる「どぜう鍋」。食べ物の幸せというのは、どんなにせっぱつまっているときでもひとときは味わえる幸福感である。「忙中食あり」とでもいったところだろうか。

ところで、日本の社会は、いつかまた昭和の時代に戻るのだという感じがどうしても抜けきれないでいたが、もう元へは戻れないと、ここへ来てようやく腑に落ちるようになった。この流れの激しさを前にしては、誰しも、またどんな執着も、完全にむなしくせざるを得ないようだ。この動きはしかし変化というよりも漂流に近く、どこへ漂着するかわからない不気味さがある。

浅草からの帰り、ショーウィンドーに写ったヒゲ面を見て気が付いた。ヒゲの白さが一段と増している。このままでいくと、いつかはサンタのヒゲのようになってしまうのだろうか。