コラム

ヨシ様の熱病

2004年12月20日

 

今でも小学校の図書室に行くと『世界の7不思議』なんて本があったりするのだろうか。昔の図書室の本棚にはその手の本が山ほど置いてあった。エジプトのピラミッドやスフィンクス、万里の長城、インカの遺跡、イースター島のモアイ像、などに混じって必ず出てきたのがバビロンの空中庭園とかいう代物で、子供心に空中に浮遊している庭園なんだろうなと思いながら読んでみると、なんのことはない、ただ石を積み上げたところに庭園があったというだけの話で、どこが不思議なんだと文句を付けたくなった。

21世紀の日本に突如出現したヨン様追っかけファンは、世界7不思議の1つにあげてもいいだろう。中高年女性の一部に蔓延するこの熱狂には、いったいどんな意味が隠されているのか。自分は心を熱くして何かを好きになるような人なのだというメッセージだろうか。新聞や雑誌に出ている分析を読んでも納得が行くものはない。首を傾げていたら、あるヨン様ファンから「ヨン様」ばかりでなく、「マツケンサンバ」や「ヒカワキヨシ」にもハマっていると聞かされた。なにが悲しくて、そんなものにハマらなければならないのかと言いたかったが、ぐっと言葉を呑み込んだ。

かく言う私(あえて言えば「ヨシ様」)も、実はこの一月ほど、野村進というノンフィクションライターに熱病のようにハマっていた。最初に読んだ『コリアン世界の旅』は、本屋で何の気なしに手に取ったのだが、あまりの面白さに、その本に巡り会った幸運を神仏に感謝せずにはおられない気持ちだった。今までなぜ知らなかったのか、でも命あるうちに巡り会えた喜び。

探してみると、野村進は『フィリピン新人民軍従軍記』、『事件記者をやってみた』、『アジア新しい物語』、『救急精神病棟』などを書いていた。どうやら、人の気を引きそうにない地味なタイトルを付けるのが、この著者の流儀らしかった。しかし、どの本も開くと1ページ目から読む者を虜にして放さなかった。仕事の合間に電車の中で読むしかなかったが、読んでいる間毎日駅のホームで待ったり電車に乗るのが楽しくて仕方がなかった。生きていることが楽しいと思えるくらい。

ヨン様追っかけファンたちもおそらく同じような思いで、ヨン様、ヨン様と言っている毎日が楽しくて仕方がないのだろう。でも、なぜヨン様にハマるのか、それだけは依然として大きな謎のままである。