コラム

エベレストに乾杯! 

2007年4月20日

 

山口瞳だったか、安岡章太郎だったか、あるいはぜんぜん違う別の作家だったか。誰かに「酒飲みの自己弁護」というエッセイがあったように思う。それにどんなことが書いてあったかすっかり忘れてしまったけれど、私は実を言うと自分ではそれほど酒飲みだとは思っていない。その一番の理由は、私の知っている酒飲みはみなそろって甘いもの嫌いだが、私は彼らと違ってかなりの甘いもの好きだからである。だいたい、酒飲みは甘いものを出しても酒がマズくなるといって、まず口に入れない。それから、酒飲みは酒を飲んでいるときはおよそものを喰わない。料理を見ているだけで満足だと言っている。その点、私は最中や饅頭、甘納豆が大好物と来ている。それに、ビールを飲んだ後で、ああビールなんかじゃなくて、冷たいカフェラッテにしておけばよかったと後悔することも多い方である。酒を飲みながら、ふと大きな餅入りのぜんざいが食べたいとも思う方である。酒が入ると俄然大食いにもなる。私がいかに酒飲みでないか、これでもう充分におわかりいただいたことと思う。

酒飲みでない私が、この一年ほど気に入っているカクテルがニコラシカである。ニコラシカ、帽子をかぶったようなユニークなカクテルで、口中で完成されるのが特徴と出ている。ブランデーを注いだショットグラスにレモンスライスでふたをして、その上に砂糖を盛っただけである。砂糖をのせたレモンを口に入れて噛み、ブランデーをあおる。私の場合、一口では飲みきれないので、あとは、干しぶどうを何粒か口に入れて、噛みながら、残ったブランデーを飲む。案内書きによると、ロシアの皇帝ニコライ2世が好んだことに由来するらしいが、非常に飲みやすいので飲み過ぎに注意と書いてある。

もう一つ気に入っているのは、事務所の近くのネパール料理の店で飲むネパールビール“エベレスト”である。味はどうということはないが、エベレストという名前がとびきりいい。だから、酒飲みでない私は、なにもビールが飲みたいわけでなく、「エベレストが飲みたくて」ときどき飲む、というのが正しい。