コラム

あんみつと大仏

2017年4月20日

 

湯島へ行った帰り、道を探しながら歩いているうちに、そうだ、あそこへ寄ってみようと思い立った。若いとき、夏休みにアルバイトをしていた店で、今も営業していると知って、機会があったらいつか訪ねてみようと思っていたのだ。あらためて、指を折って数えてみると、もう45年前のことである。店の人はもちろん店内の様子も完全に変わってしまって、思い出せるものは何もなかったが、売り物のあんみつと小倉アイスだけは昔と変わりがないように思えた。店内は老夫婦や母と娘、年配の女性同士など、連れ立ってきている客ばかりの中で、ひとりあんみつを食べていると不意に思い出した。そういえば、牛久から店にアルバイトに来ている娘がいて、一緒に向ヶ丘遊園まで遊びに行き、ボートを漕いだり、観覧車に乗ったりしたが、手を触れあったりするようなこともなく、常磐線で送っていってひとりホームに取り残され、心細い思いをしたことがあった。

 

その頃は牛久の大仏はまだなかった。調べてみると、牛久の大仏が工事に着工したのは昭和61年、完成したのが平成4年とあるから、着工までにまだ十年以上の開きがある。高さ120メートルは、ブロンズ像としては世界最大だそうだが、これを目の当たりにする機会はまだない。

 

この牛久の大仏に次いで高いのが高さ100メートルの仙台の大観音像といわれる。こちらの方は、毎朝毎晩目の当たりにしていた時期がある。平成17年から平成21年までの5年間、毎年9月に東北大で1週間の集中講義をしたが、仙台で定宿にして泊まっていたホテルが大観音像の隣に立っていた。市街の中心部からは距離があるが、部屋がその分広くとってあるのがよかった。大学で1日4コマの授業をこなしてへとへとになって帰ってくる。日が沈みかけた黄昏の中を、タクシーに乗って、まっすぐに続いている坂道を登ってくると、白い靄の中に大観音像が浮かんでいるのが見えてほっとした。

 

朝は、ホテルの部屋のカーテンを開くと目の前に巨大な観音像が壁のようにそそり立っていて、最初はうっとうしいと思う気持ちが優ったが、少しずつそれが親しみに変わり、やがて、私は大仏が好きかもしれないと思うようになった。