コラム

かわいいゴキブリ

2008年6月20日

 

『弁護士のくず』という漫画をときどき読んでいる。この間は著作権をめぐる争いが起きてちょっとした話題になった。連載しているのは中高年男性をターゲットにしている漫画雑誌で、マーケティングの世界では“おっさん向け”などといわれていると聞くと敬遠したくなるのだが、ついつい買ってしまう。

『弁護士のくず』は豊川悦史主演でテレビドラマ化もされたが、「くず」と呼ばれる一見愚鈍で、行動はがさつ、物言いは下品な弁護士が、実はとても有能で、鋭い洞察力と柔軟な機転で難事件を見事に解決しては困っている人を助ける話である。一見ダメそうな主人公が実は有能だったという筋書きは、刑事コロンボなどにも見られるが、我々はむかしからこのパターンにはまりやすい。

医者を主人公にした『ブラックジャック』も、一見悪人のような医者が、実はとても献身的な医者だったという話だった。このように、弁護士や医者を主人公にした漫画やドラマが多いのは、どちらも困っている人を助けるという、わかりやすい面があるからである。また、医者や弁護士は人によって技術や能力の個人差が大きく、その個人差によって命が助かったり、有罪が無罪になったりすると思われていることもある。「名医」や「腕利きの弁護士」が登場するゆえんでもある。

そこへ行くと会計士というのは、なかなか漫画やドラマにはなりにくい世界である。個人差があったとしても傍目にはわかりにくい。ときどき会計士の仕事を無理にドラマ仕立てにしたものがないわけではないが、あまりドラマチックなものは寡聞にして知らない。

しかし、それが幸いする面もないわけではない。「名会計士」とか「腕利きの会計士」とか言われることもない代わり、また、「ヤブ」や「くず」と呼ばれることからも免れているのである。

とまあ、こんなことを会計士の機関誌に書いたとたんに、NHKで『監査法人』というドラマが始まった。会計士は1万数千人から5万人への増員が決まっており、間違いなく存在感が低下するだろうが、逆に大監査法人はいやがうえにも上がるだろう。それで、別の機関誌には、こんなことを書いた。

数の多いものは邪険にされ、少ないものが大事にされるのは、世の常である。東京だけで10億匹はいるであろうゴキブリだって、数が少なくなれば、パンダやトキのように可愛がられるようになるかもしれないのだ。そうなったら、ゴキブリをペットにしたいという人だって出てくるだろう。「きゃっ、ママ、でっかいゴキブリよ。天井にとまってるわ」。「あら、なんて可愛いのかしら。」「あの茶羽根をブルブルふるわせて、今にも飛ぼうとしているところが、可愛らしくて何とも言えないわね」「私は、あのギザギザ足ですりすりしてるところが可愛いわ」なんて、光景が珍しくなくなるだろう。私はそんな時まで生きていたくないが。